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// by 折場 捻人

バントック: ハマブディル(ヘブライの歌) / ヴィオラソナタ第1番

前回に引き続き、イギリスのチェロ小品である。作曲者グランヴィル・バントックは1868年ロンドンの生まれ、シベリウスやR.シュトラウスよりも少し下、ヴォーンウィリアムズよりも少し上になるがほぼ同世代にあたる。バーミンガム市響の前身にあたるバーミンガム・シティー・オーケストラ(英国で初めての公的支援によるオーケストラ)の設立に関わったことで知られているかもしれない。バントックの作品はハイペリオンから結構出ていたが、Spotifyではまだ一部しか配信されていないようだ。こちらはChandosから第4集まで出ている"British Works for Cello and Piano"シリーズの第1作。

Granville Bantock: Hambabdil
(arr. for Cello and Piano)
Paul Watkins (vc)
Huw Watkins (pf)
(2012)

『ハマブディル』というのはヘブライ語で『ヘブライの歌』という意味らしい。短いが癒し効果抜群の曲だ。ブロッホの『ユダヤ人の生活より』などを思い出させる。バントック自身はユダヤ系ではないと思うが、異国趣味が強かったらしく、中近東から東洋に至るまでを題材にしたさまざまな作品を残している(『日本の歌』などという曲もある)。この曲は旧約聖書外典『ユディト記』に基づくアーサー・ベネットの劇『ジュディス』("Judith")に付けた付随音楽中の一曲とのこと(ハープ伴奏でも演奏される)。1919年、第一次大戦直後の作品で、ちょうどバントックがバーミンガム大学教授として市立オーケストラの設立に尽力していた時期のものである。

チェロを弾くポール・ワトキンスはエマーソン四重奏団の現在の(3代目)チェリスト。同じChandosから出ていたウォルトンのチェロ協奏曲のCDは好きだった。エマーソン四重奏団は今秋で解散するとのこと。まさに今日からお別れコンサートが始まっている。ワトキンスは若いことだし、(指揮もやるようだが)ソロでの活躍をまだまだ期待できるだろう。

Granville Bantock: Viola Sonata
No. 1 in F Major "Colleen"
Rupert Marshall-Luck (va)
Matthew Rickard (pf)
(2011)

バントックの多くの曲が異国趣味というわけでは勿論なく、こちらはアイルランドに題材を求めたヴィオラソナタで、副題の『コリーン』は、アイリッシュの少女という意味。結構な長さの第1、第2楽章は、ひたすらまろやかな音楽が少ない起伏で流れていく感じ。少しとりとめがない気がするものの、はっとさせられる瞬間も時々ある。一転、第3楽章はまさにケルト音楽(ジグ)風の主題が現れて楽しい。このアルバムのジャケットはアイルランドの向い側、ウェールズのもののようだが、同じケルト圏であり、そういった風景を思い浮かべながら聴くといいのかもしれない。

 

(Oct. 14, 2023)