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// by 折場 捻人

バウスネルン: エレジー / ルドルフ: 弦楽六重奏曲

プロイセンの首都から新興ドイツ帝国の首都へとベルリンが拡大していく時代にあって、ヨアヒムが新設された音楽院 (Königliche Akademische Hochschule für ausübende Tonkunst) の院長に招かれたのが1869年のこと。前回のバルギールはここで1874年から作曲を教えていた。その頃の弟子のリストを眺めていて、ヴァルデマール・フォン・バウスネルンという聞きなれない名の作曲家に行き当たった。1866年ベルリンの生まれで、世代的にはブゾーニや R. シュトラウスと同じになる。弟子の中ではレフラーよりも5歳下、ユオンよりも6歳上にあたる。録音は少ないようだが、室内楽曲集が2点見つかった。聴きやすい一方で、やや取りとめのない曲が多く、また表現する上で何か徹底することをためらうような感じを受ける(「詩的」といえなくもない)中で、比較的まとまりが良いと思ったのが第1集に入っていた『エレジー』という10分足らずの小品である。曲想はどこから見てもロマンティックであり美しいし、適度な重さもある。そのほか、第2集の『弦楽三重奏曲』もまずまず魅力的だがちょっと淡泊に過ぎる気もする。

Waldemar von Baussnern: Elegie
for Violin and Piano
Berolina Ensemble
(2013)

演奏しているベロリナ・アンサンブルは、ベルリンの擬人化キャラクターであるべロリナ(かつてアレクサンダー広場に銅像があったとのこと。検索すると写真が見つかる)を名称としていることからもわかるように、ベルリンで結成されたアンサンブルで、MD+Gレーベルに同趣向のアルバムをいくつか録音している。それらを漁っていてもう一人、興味深い作曲家に出会った。エルンスト・ルドルフ、1840年ベルリン生まれである。Wikipedia(がソースにしている音楽辞典)によると、十代の頃バルギールからピアノを習ったとあるが、他のサイト(*1)では同時にバルギールの紹介によりクララからも習っていたとされている。たいへん保守的な作曲家であると同時に、黎明期の自然保護活動によっても知られているようである。

『弦楽六重奏曲』はライプツィヒ音楽院で学んでいた若い頃(1862年)の作品で、以前にも取り上げたR.シュトラウスの『カプリッチョ』の前奏曲である六重奏曲と少し共通するものを感じる(あくまで雰囲気だけだが)。但しこちらはヴァイオリン3、ヴィオラ1、チェロ2という編成である。ヴァイオリンが強化されていることと、作品が当時ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートマスターだったフェルディナンド・ダヴィッドに献呈されていることは関係がありそうにも思うが詳細はわからない。ちなみにブラームスの『弦楽六重奏曲第1番』(こちらも初期作品)が作曲されたのは前々年に当たる。

第1楽章は湧き出る泉のように新鮮かつ流麗な美しい曲想。第2楽章のパッサカリア風な趣きを持つ変奏曲も素晴らしい。これに比べると第3楽章は急に忙しくなって、いい所もないわけではないが好みではない。だが全体に弱冠22歳の作品であることを考えると、当時はさぞかし将来を期待されたのではないだろうか。残念ながらその後作曲家としては大成しなかったものの、ベルリン高等音楽院のピアノ教師など主に教育の面で長く活躍した。断片的な情報から推測すると、クララ・シューマン、ブラームス、ヨアヒムあたりとの関係において、結構重要な役割を担っていた人であるようにも思われ、その文脈からいずれもっと光が当たる日が来るかもしれない。

Ernst Rudorff: Sextett in A Major, Op. 5
Berolina Ensemble
(2014)

 

(Apr. 13, 2024)