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// by 折場 捻人

クラーク: ピアノ三重奏曲

アイヴズやビーチを聴いていたためか、おすすめに出てきたアルバム。見ただけでちょっと前のアメリカがテーマと分かるジャケットだ。3曲目に入っているレベッカ・クラークはヴィオラ演奏家でもあった。アイヴズよりも12歳下(1886年生まれ)になる。とはいえ生まれはアメリカではなくイギリスであり、若い頃王立音楽大学でスタンフォードに師事している。ほどなくしてアメリカに定住したことから、戦間期のアメリカのピアノ三重奏曲をテーマとするこのアルバムに収められているようだ。

Rebecca Clarke: Piano Trio
Gould Piano Trio
(2019)

この作品は1921年、エリザベス・S・クーリッジの主催するバークシャー音楽祭(マサチューセッツ州で開催)における作曲コンクールへの応募作としてアメリカで作曲されたもの。第一次大戦の記憶もまだ新しい頃であるだけに、戦争を思わせる雰囲気が、第1楽章の異様に緊張した曲調や、繰り返し出現する連打音・信号ラッパのようなフレーズなどに濃厚に表れている。第一次大戦と信号ラッパといえば、ドビュッシーの『白と黒で』を想起しないわけにいかない。ドビュッシーの方がより抽象的で傾向は違うのだが、なんとなく同種の時代背景を感じるように思う。ちなみにドビュッシーの方は戦中(1915年)の作品。

冒頭から突き刺さるように攻撃的な印象を受けるものの、ロマン派の延長に属する曲であり、第2楽章以降は尚更である。民謡風の旋律も現れる。ただイギリス民謡というよりは東欧風で(本当の所はわからないが)、作曲者名を伏せて聴かせられたらおそらくイギリスの作曲家とは思わないだろう。

ところで、大富豪クーリッジはその後アメリカ議会図書館に「クーリッジ財団」を設立し、委嘱した曲の上演とその楽譜の収集を行うようになった。以前取り上げたプロコフィエフの『弦楽四重奏曲第1番』もこの委嘱により作曲されたものである。プロコフィエフは自伝の中で、この委嘱が図書館のまだ乏しかった蔵書を増やすことを目的としており、「十曲のうち一曲くらいしか、時間が経って何らかの価値があるようにはならないだろうが、それまでにはもともと払った額の十倍の価値になっていることだろう」と率直な感想を述べている。

組み合わされたビーチとアイヴズのピアノ三重奏曲も揃っていい曲だ。前者は比較的短いがビーチの個性が十分表れている。後者は学生時代を懐古して作曲したとも言われており、そういわれればなるほどと思わせる部分もある(特に第2楽章)。もちろんアイヴズだけに単なる懐古趣味には終わらず、さまざまな仕掛けが凝らされていて楽しめる。

(Sep. 30, 2023)