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// by 折場 捻人

ゲッツ: ピアノ五重奏曲 / ピアノ四重奏曲

ヘルマン・ゲッツというドイツロマン派の作曲家については、1990年代の音友ムック『クラシック・ディスク・コレクション301』の巻頭言で濱田滋郎氏が強力に推していたので見知ってはいたが、CDを手に入れるまでには至らなかった。少し前に配信のおすすめに出てきたアルバムを聴いて、ようやくこれがあのゲッツの曲かと、ほとんど忘れかけていた記憶の中で空いていた穴が埋まった感じであった。『ピアノ五重奏曲』は、23歳から移住していたスイスで書かれた晩年(1874年)の曲。シューマン風の書法こそあちこちに見られるが、旋律・和声・対位法的魅力に事欠かず、隙の無い大曲に仕上がっていると思う。第1楽章テーマなど、ふと頭の中で勝手に再生され、何の曲だったか悩むことになったりする。ちなみに、前回のヴォーンウィリアムズと同様、コントラバスを加えた編成を取っている。

意外と録音は多くあってそれぞれ楽しめる。下のアルバムは速めのテンポですっきりと仕上がっていて好みの演奏である。ピアノの音色がクリアで、弦の方は伸びがありヴィブラートも絶妙に制御されている。組み合わせは、これも劣らず整然として快い力作である『ピアノ四重奏曲』。どちらが良い曲か、同じく短調・長調の対であるモーツァルトの40番と41番がそうであるように、考えても意味がないといったら例えが過ぎるだろうか。

Hermann Goetz: Piano Quintet
in C Minor, Op. 16
Oliver Triendl (pf)
Marina Chiche (vn)
Peijun Xu (va)
Niklas Schmidt (vc)
Matthias Beltinger (cb)
(Released 2015)

最初に聴いたのが次のアルバム。元はASVレーベルの録音。このジャケットにはPro Arte Quartetとあるが、歴史ある四重奏団とは違うようで紛らわしい。メンバーを調べると、以前取り上げたウォルトンの『ピアノ四重奏』のアルバム(Chandos)と全く同じ。Academy of St Martin in the Fieldsのメンバーのようである。演奏は上と同傾向。ただ私の環境のせいか、小音量だと帯域圧縮したような音になる時がある。スピーカーに近づくと綺麗な音になるので、普段から聴く時の姿勢に無頓着であることを反省させられる、不思議な録音だった。低音がとても充実して聴こえる。

Hermann Goetz: Piano Quintet
in C Minor, Op. 16
Paul Marrion (pf)
Pro Arte Piano Quartet
(2003)

濱田氏の記事で取り上げられていたのは下のアルバムであった。2枚組でより多くの室内楽曲が収められている。上の2種類に比べてテンポの取り方は教科書的で、緊張感を楽しむというよりは温かさの感じられる演奏。『ピアノ三重奏曲』や『ピアノ四手のためのソナタ』などの併録曲は貴重かもしれない。

Hermann Goetz: Piano Quartet
in E Major, Op. 6
Göbel Trio Berlin
Lois Landsverk (va)
(1990)

こちらは『ピアノ五重奏曲』だけだが、昔からぽつぽつ取り上げられていた曲であることがわかる、1950年の録音。南西ドイツ放送局のおそらくは放送音源と思われる。SWRと書かれたこのジャケットのアルバムは配信で良く見かける。局のアーカイブにあるものを公開してくれているのはありがたいのだが、ウェブサイトに詳細情報が何も載っていないのが残念。やや硬直した足取りを感じる面もあるが、音の表情は情緒的で独特の味わいがある(第2楽章のポルタメントなどに顕著)。録音状態は年代相応であまり良くない。

Hermann Goetz: Piano Quintet
in C Minor, Op. 16
Barchet Quartett
Hans Priegnitz (pf)
(1950)

(Feb. 17, 2024)