コルンゴルト: ヴァイオリンソナタ
かなり前にコルンゴルトの『ピアノ五重奏曲』を取り上げた。この『ヴァイオリンソナタ』はそれよりも8年前の1913年、コルンゴルトわずか16歳の作品である。1913年といえば、パリで『春の祭典』が初演された年であり、シェーンベルクの『月に憑かれたピエロ』は前年に完成している。そういう時代ではあるが、この『ソナタ』はバーバリズムとも無調とも無縁であり、かといって保守的ではまったくなく、意欲的な語法に溢れている。さらに、爛熟し享楽的な「旧世界」の雰囲気をふんだんに纏っている。全4楽章のうち、自作リート曲を変奏のテーマに取った最終楽章はやや肩透かしな感じではあるものの、どの楽章をとってもそのゴージャスさ(和音が分厚い)に驚くし、情感に訴える和声や旋律には事欠かない。第2楽章スケルツォ(複合三部形式)は、ブルックナーの第5交響曲のスケルツォと似てかなりしつこいのだが、楽譜を見ながら聴くと(繰り返しが多いとはいえ)あまりにも大変そうなので余計にそう感じるのかもしれない。スカッとした演奏で音だけを聴いていればそれほどでもない。この規模の大きさもコルンゴルトの意欲の表れのひとつなのだろう。世は第一次大戦に向かい、ウィーンではハプスブルク家の没落が何となく予感されていたというが、この作品にその影はない。これからますます上昇していくコルンゴルトの才能の輝きに満たされている。
この曲はフレッシュとシュナーベルに献呈され、両者により初演されている。フレッシュとは分厚く重い音階教本で有名な、ヨアヒム後のドイツで最も重要な指導者といわれたカール・フレッシュである。シュナーベルはコルンゴルトよりも15歳上、フレッシュは26歳上である。このソナタのピアノパートはヴァイオリンソナタとしては複雑で難しい部類だと思うが、ベートーヴェンの32曲のソナタを弾きこなせるなら問題ない程度(それが大変なのだけれども)に見えるので、シュナーベルは適役だっただろう。実際、フレッシュと室内楽活動をはじめていたシュナーベルから、コルンゴルトの『ピアノソナタ第2番(作品2)』を初演した上でのたっての依頼だったという話もある。
録音はいくつか見つかるが、このCPOの録音がやや古いながらも好みの演奏だった。曲の性格からして四角四面では当然魅力を生かすことはできず、ソナタの枠からはみ出ない範囲で微妙な崩しが必須である。また、ピアノがヴァイオリンに奉仕するという関係でもよくないだろう。感覚的に、この演奏が聴いた範囲では最も気持ちよい肌ざわりであった。
Erich Korngold: Violin Sonata in G Major,
Op. 6
Sonja van Beek (vn)
Andreas Frolich (pf)
(1999)
大曲であり苦労のわりに一般受けしなさそうなのでなかなか機会はないかもしれないが、この曲は実演でも是非聴いてみたいものの一つだ。
(Jun. 22, 2024)