マルクス: ピアノ四重奏のためのバラード
前回からのピアノ四重奏曲つながりで、1882年生まれのヨーゼフ・マルクスの『バラード』を取り上げたい。後期ロマン派、リヒャルト・シュトラウスよりも20年ほど後の世代に属するオーストリアの作曲家である。かなり前にアムランの弾いた『ピアノ協奏曲』の録音があった。当時に比べ現在ではかなり多くの作品が録音で聴けるようだ。この『バラード』は、冒頭でチェロから始まる弦楽器のカノンで提示される感傷的な第1主題が強弱の波を伴って全奏に至るあたり、掴みはよくできていると思う。全曲20分ほどの中で冗長に思える部分もなくはないが、情熱的な盛り上がりも品が良く、聴いた後の充足感はなかなかである。アルバムのメインに据えられた『幻想的トリオ』(ピアノ三重奏曲)ともども良い曲だ。『幻想的トリオ』の第2楽章はストレートなロマンティシズム(ちょっと前のポップスにありそうな)が美しく、第1楽章第1主題はスクリャービンの有名なエチュードOp.8-12を思わせる。また、以前取り上げたコルンゴルトの『ピアノ五重奏曲』と似た書法が見られ、雰囲気もそっくりである。コルンゴルトが1922年、こちらが1911年、その間第1次世界大戦があったとはいえ、当時のウィーンの標準的音楽趣味を反映した保守的調性音楽の典型なのだろう。実際マルクスは批評家としてコルンゴルトを擁護したこともあったらしい。だが彼ら保守派について語られる機会は、対極にあった新ウィーン楽派に比べ、未だに少ないようだ。
Joseph Marx: Ballade for Piano Quartet
Trio Alba
Wen Xiao Zheng (va)
(2013)
ヨーゼフ・マルクスについては、ドイツの個人による詳細な解説サイト(*1)や協会サイトなどがあって、情報は豊富だ。特に前者の記事の中には、『秋の交響曲』という大作が長い間なぜ演奏・録音されなかったのかに関する探究があって面白く読める。その記事が公開されて10年以上経った今では下記の録音が出ている(2008年にニューヨークで録音がなされたという情報もある)。マルクスの生誕の地グラーツのオーケストラによる記念碑的な録音である。くつろいで聴けるものの、腰を据えてかからないと迷子になりそうだ。
Joseph Marx: Eine Herbstsymphonie
Grazer Philharmonisches Orch.
Johannes Wildner (cond)
(2018)
そのほか、弦楽四重奏曲の作曲者自身による弦楽オーケストラへの編曲『古風なパルティータ』『古典様式によるシンフォニア』(3曲中2曲を編曲)も素晴らしい。特に緩徐楽章の美しさが際立っている。一瞬も病的にならない、穏健で均整を重んじるスタイル(つまりはブラームスの流れ?)というのも立派な個性だと思わされる(但し気が立っている時に聴くとイラつくかもしれない)。前衛真っ盛りでロマン主義否定の戦後の時期にそうは受け取られにくかったこともよくわかるのだが。
Joseph Marx: Quartetto in modo classico
(Version for String Orchestra)
Bochum Symphony Orch.
Steven Sloane (cond)
(2003)
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JOSEPH MARX / Master of romantic impressionism, Berkant Haydin, http://www.joseph-marx.org/, 2023年1月28日閲覧
(Jan. 28, 2023)