はじめに
2015年くらいからだろうか、クラシック音楽関係の面白いガイド本(バイヤーズガイド)が出版されることが本当に少なくなってしまった。購買層の裾野を広げるためと思しき入門者向けの本ばかりが目立つようになり、いわゆる名曲のその次の音楽を知る手段、ちょっと変わった面白い音源を知る手段が徐々に限られてきた。『レコード芸術』のような月刊誌を丹念に追うという方法もあるだろうが、もう何十年も前にそのような習慣は捨ててしまっていた。
1990年代から一種のカウンターカルチャー的なスタンスを持ったガイド本が洋泉社などから出版されて、結構影響を受けたりした。チェリビダッケの音楽に開眼させられたのもそれらがあってこそである。その流れで特に気に入っていたのが鈴木淳史氏の『背徳のクラシック・ガイド』や松本大輔氏の『クラシックは死なない』シリーズだった。あるいは、『レコード芸術』系統ではあるが音楽の友ムックとして出ていた『クラシック・ディスク・コレクション301』という本もあった。とにかくこういう一歩踏み込んだガイド本にとんとお目にかかることがなくなってしまった。
昔は定期的にCDショップを巡って掘り出し物を探していたような記憶もあるが、時間も体力も限られてくるようになって、もっぱらあらかじめ買おうと決めていったCDを探すだけとなり、やがてそれすらせずにHMVやAmazonの通販に頼るようになってしまった。だが、通販というのも何か常時それに頼ることが罪悪感・嫌悪感を生むような種類のサービスであって、そんなことを言っていたら現代では生き抜けないのかもしれないが、数年前に東京の西の端っこの特に不便な場所に引っ越してからはほとんどCDを買うこともなくなってしまっていることに気づいたのである。
要は新たな音源に出会うに至るために必要な刺激が極端に少ない状態にはまり込んでしまったわけだが、そんな中、与えられたガイドではなく、貧弱ではあっても自分の感覚を頼りに積極的かつストレスなく好みの音源を見つけること、これがどうやら視聴制限のないストリーミングサービスであれば可能なのではないかと遅ればせながら気づいた。以前からNaxos Music Library (NML)のようなサービスがあることは知っていたが、高価なプランしかないので自分にはもったいないと思っていた。だが、見回してみればNaxosよりも網羅性は劣るものの、所詮多くを聴かない自分のような愛好家でもそれなりに楽しめるストリーミングサービスがあるではないか。特にSpotifyは自分のライブラリに追加した音源をダウンロードしておけばオフラインでも再生ができるらしい。うまく囲い込まれているようにも思われるが、これで行ってみるか。とりあえず探検の準備は整った。ついでにその履歴をメモ程度に書き残そうと思ったのがこのブログの始まりである。
還暦近くにまで歳を重ねれば感受性は衰えるものだ。新しい音楽を求めるのはそれに対する無意識の抵抗なのかもしれない。だとすると、ストリーミングを使って未知の音楽を聴き回るというのは、今更ながらの感受性の筋トレといったところか。やらないよりやる方がましという程度だとしても。
アルバムアートワーク(ジャケット)のこと
本サイトの記事にはSpotifyのPlayButtonと呼ばれるiframeタグを貼っているが、別に読んでくれた人をSpotifyに誘導したいわけではなく、アルバムのカバーアートを楽に貼りつけられるからに過ぎない(アフィリエイトの類ではない)。別のより良いサービスが出てくればそちらに乗り換えるかもしれない。ともかく、良くできたジャケットというものは、眺めて楽しい以上にそこに収められた音楽を想起するのに最も簡便なアイコンのようなものだと思っているので、この機能をありがたく使わせてもらっている。
譜例について
曲中の場所を示したいときにはできるだけ譜例を使っている。タイム表示や小節番号(楽譜があれば)は客観的だが確認にひと手間かかって面倒だと思うからである。譜例の作成にはMuseScoreを使用した。
挿入写真について
ときどき記事に風景写真を添えているが、いずれも近場の多摩川の流れを写したものである。本文との関連は特にない。
(Oct 30, 2022)