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// by 折場 捻人

バックス: ピアノ五重奏曲 / ブリッジ: ピアノ五重奏曲

バックスの『ピアノ五重奏曲ト短調』は初期作品で、交響詩『ティンタジェル』に先立つ1914-15年に作曲されたもの。冒頭でピアノが大きく呼吸するようにさざ波音型を弾き出すと、ほんの数小節だけでもう神秘的な幻想世界に引き込まれるようで、耳を捕えて離さないのだから不思議なものだ。その後もダイナミックな和音と強烈なアクセントでスケールの大きさを見せつける。バックスの得意とした大管弦楽による派手な音響への指向とはまた違うし、当然エネルギーの絶対量もそこまでではなく、萌芽があるというあたりだろうか。3楽章構成・約40分という長さについては、7曲の交響曲と共通する。冒頭の冷え冷えとした雰囲気は、後で何度か戻ってくるものの、すぐにずっと素朴で優しい音楽になっていき、総体としてバックスの中でも聴きやすい作品といえるのではないかと思う。

Arnold Bax: Piano Quintet
in G Minor
Ashley Wass (pf)
Tippett Quartet
(2009)

上のNaxosのアルバム(シャープな演奏で素晴らしいと思う)には、後半にブリッジの『ピアノ五重奏曲』が組み合わされている。バックスとブリッジではどちらも名前がBで始まる同時期のイングランドの作曲家という以上の接点はない気もする。だがこのブリッジの『ピアノ五重奏曲』が殊の外良い作品だった。以前に取り上げた『Phantasyピアノ四重奏曲』と同趣向で、時期も同じであるが、『五重奏』の方は3楽章構成に拡張されてさらに深くブリッジの個性を味わい取ることができる。かなめは第1楽章の第2主題。最初は単に耳馴染みのよい旋律という程度にしか思わなかったが、やがて懐かしさのツボにぐいぐいと入り込んでくる。第2楽章のデリケートで甘い旋律も加わり、こんな美しい曲は滅多にないのではと思う程になってしまった。第2楽章結尾は強い満足感・終止感があり、一瞬曲全体が終わったのかと勘違いするうちに第3楽章が始まる。明らかに「まだ続くのか」ではなく「まだ終わらなくて良かった」である。

Frank Bridge: Piano Quintet
in D Minor
Piers Lane (pf)
Goldner String Quartet
(2008)

こちらはブリッジの別演奏。上のTippett四重奏団に比べると柔らかくて起伏が少ない感じの丁寧な演奏であるが、やや物足りない気もする。ただ、第3楽章コーダで弦四部全員が限界に近い急速な三連符による上昇音型(チェロは下降)を奏する部分については、前者の攻めのテンポではさすがに苦しい感がある。どちらも果敢に処理しているとは思うが。

 

(Feb. 3, 2024)