ブリッジ: 幻想ピアノ四重奏曲
これもコベットの委嘱により1910年に作曲された10分ほどのPhantasyである。短い序奏に続いて抒情的なテーマがピアノ独奏で奏され、優しい幻想の世界に引き込まれる。中間部はスケルツォで、妖精が出てきそうな、いかにものファンタジー。最初はちょっと苦手だったが、すぐに慣れて違和感なく聴けてしまう。その後冒頭の主題が雄大に繰り返される箇所もなかなか聴かせる。コンパクトながら起伏も十分にあって楽しい作品である。
探してみるとMaggini四重奏団やEnsemble Contrasteなど良い演奏がいくつかあるようだ。ここではアメリカのファミリーアンサンブルであるAdkins String Ensembleのアルバムを取り上げるが、他も同じように隙がなく、録音もクリアである。
Frank Bridge: Phantasy Piano Quartet
in F-sharp Minor
Adkins String Ensemble
(2003)
このアルバムには、他にブラームスの『ピアノ四重奏曲 第3番』と、アメリカの現代作曲家ダグラス・ブライリー(Douglas Briley)による "Quintet for a Healing Nation" というタイトルのピアノ五重奏曲が収められている。後者については作曲家・曲ともに情報がほとんど見つからないが、1971年生まれでこの作品は2002年のものであるとのこと。となると当然 "a Healing Nation" は当時テロ攻撃を受けたアメリカなのだろう。室内楽に託す規模を超えたテーマとも思えるが、国家の「癒し」も詰まるところ個人レベルに還元して考えるべきということか。音楽自体は保守的で、新ロマン主義というのだろうか、最初の方は何かNHK大河ドラマのテーマ音楽のようであった。構成も上のブリッジの曲と似た感じがあって、こうして並べると、百年を経てアメリカに現れたPhantasyという見方もできそうだ。
(Dec. 23, 2023)