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// by 折場 捻人

デュポン: ピアノと弦楽四重奏のための詩曲

またも初めて知った作曲家、ラヴェルとほぼ同年代のフランス人ガブリエル・デュポンの作品である。詩曲と題されているがれっきとしたピアノ五重奏曲。「わが師Ch.-M.ヴィドールに捧げる」との献辞がある通り、デュポンはヴィドールに作曲を学んでいる。三つの楽章にそれぞれ付けられた"Sombre et douloureux", "Clair et calme", "Joyeux et ensoleillé" という副題(標語)が物語る通り、典型的な暗から明への曲想を持った、とてもロマン的な曲である。

Gabriel Dupont:
Poème pour piano et quatuor à cordes
Marie-Catherine Girod (pf)
Quatuor Pražák
(2013)

どこをとっても隙のない非常に充実した名作で、いずれの楽章も楽しめるが、やはり第3楽章、冒頭で抑えていたものが弾けるような幸福感あふれるテーマ(わざわざ「幸福の絶頂」と注記されている)、さらに「暖かく表情豊かに」とある3/2拍子のチェロによるまさに指示通りの美しいテーマを経て、それらが入念に変形・結合されながら盛り上がっていく様子は息をのむほど。

ただ、デュポンは結核を患い長い療養を余儀なくされ、結果わずか36歳でこの世を去っている。この曲もその早い死の3年前(33歳)に作られたものであり、そういうことを知ってしまうと、病魔のために得られなかった曇りのない幸福を希求する作曲家の思いに一層胸打たれるものがある。終楽章の最後の登攀の直前、一旦ppになってそっと冒頭テーマを繰り返す部分があるが、そこには "La Mélancolie du Bonheur"(直訳すれば「幸福のメランコリー」)と書かれている。この語は、同じアルバムに収められたピアノ曲集『砂丘の家』第5曲の題名でもある(その主題はこの五重奏曲の第2楽章に引用されている)。幸福の裏にメランコリーが付いて回り、現実に引き戻されるという諦めを表すのかもしれないが、曲はそのメランコリーを振り切るように素晴らしく明朗で格好のよいコーダで締めくくられる。

ジローとプラジャーク四重奏団は、2013年のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンでこの曲を演奏している。当時もしこの曲を知っていたらと思わずにいられないが、午前の部11時から1回だけのプログラムとあっては、知っていたとしても聴き逃したかも。

ちなみにこのアルバムのジャケットの絵に描かれた女性は、以前ルクーの回でも触れた、フランクのヴァイオリンソナタを公開初演した名ピアニスト、ボルドペーヌである(デュポンの曲との関係は不明)。

 

(Jun. 3, 2023)