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// by 折場 捻人

ユレ: ヴァイオリンソナタ

ル・フレムの回で取り上げたアルバムと同じ演奏家の録音を当たっていて見つけたもの。ジャン・ユレは前回のデュポンやラヴェルと同世代で、ヴィドールやケクランにパリ音楽院への入学を勧められたが独自の道を歩んだ。そのためか否かはともかく非常に知名度の低い作曲家である。イヴ・ナットやマニュエル・ロザンタール(それぞれピアニスト・指揮者として親しみ深いが、両者とも作曲も行っていたとは知らなかった)といったフランスの著名音楽家を教えたこともあるらしい。

Jean Hurè: Violin Sonata
Philippe Koch (vn)
Marie-Josèphe Jude (pf)
(2009)

このソナタの面白い所は、第1楽章と第4楽章(終楽章)とで第1主題が共通になっていること(リズムを変えてはいるが)で、それも単に主題が回帰するというのではなく、共通の主題を異なる方法で扱った二つの回答をそれぞれの楽章として置いている、といった印象を受ける。ソナタ作品として類例があるのかどうかわからないが、少なくとも聴いていて今どこにいるのか、このフレーズはさっきどこで聴いたものだったか、などと迷いそうになるのは確かだ。だが難しい曲では全くなく、優雅な雰囲気を優先させて気楽に浸ることができる(決して貶めて言うわけではないが、最初聴いたときは「おしゃれな雰囲気のBGM」的要素が少なからずあると思った)。

第1楽章冒頭の第1主題はドリア旋法で、若干悲劇的でもあり懐かしくもありといった感じ。対する第2主題は情緒があり素直に美しい。第1楽章と第4楽章の性格の違いはそれぞれの冒頭に与えられた発想記号にも現れていて、前者は"Grave et dramatique"、後者は"Grave et doux"と書かれているのだが、その通りというか、展開の方向性に外向的・内省的との違いが感じられる(とはいえそれほど単純に言い切れるものでもなく、当てはまらない箇所も多々あるのだが)。第2楽章は短いが変化に富んでいる。後半には先の第2主題も顔を出す。第3楽章には、省略しての演奏を示唆するような注記が楽譜にあり、これは全体の長大さ(40分ほど)から来るものであろうが、ばっさり行くには惜しいものがある。逆にこの楽章単独でも存在感のある楽しい曲になりそう。

ジャン・ユレの録音は配信では他にチェロソナタが見つかる程度でほとんどないに等しい。そのような中、演奏も真面目な感じで好ましく、一緒に入っているピアノ五重奏曲ともども貴重な存在と言えるだろう。

 

(Jun. 10, 2023)