ガル: ピアノ三重奏曲第1番
少し前にゴルトマルクのアルバムを取り上げたが、そこに一緒に入っていたピアノ三重奏曲を聴いたのがハンス・ガルの名を知ったきっかけであった。Doverから出ているブラームスの交響曲集の表紙にガルの名前がある通り、ブラームス全集の校訂を行ったことで有名なようだが、手持ちのスコアは音楽之友社版なので知らなかった。この校訂作業は師でもあったマンディチェフスキーに協力する形で行われたとのこと。そして、10分少々のそのピアノ三重奏曲は、ユダヤ系であったガルが当時音楽学校の校長をしていたドイツのマインツからイギリスへ逃れた後の1948年に作曲されたもので、軽妙で明るい作風の楽しい小品。今回取り上げるのはまだガルがウィーン大学で教えていた頃、1925年の別の作品である。同じ三楽章形式でスタイルもそれほど違わないが、規模はずっと大きい。
Hans Gál: Piano Trio in E Major, Op. 18
Briggs Piano Trio
(2018)
第1楽章の特に冒頭、ピアノが属音上に奏でる微妙な和音に続きチェロが歌いだすあたり、何ともアダルトな雰囲気の上品でくつろいだ音楽である。7歳下のコルンゴルトとも方向性がちょっと異なる、現代にも通じる独特のセンスが感じられる。この第1楽章に比べると後続楽章はやや普通であるが、良い曲を聴いたという満足感は十分に得られる。上の演奏は、心地よい揺らぎ感や、毛筆の滲みのような和音の響きが素晴らしく、曲を十二分に引き立てている。
ガルはそのままイギリスのエジンバラにとどまり97歳まで長生きしたのだが、死の前年1986年に行われたインタビュー記事をToccata Classicsの社長がブログに転載している(*1)。ラジオの音楽放送が始まる前は公の演奏会もおのずと数が限られていたため、新ウィーン楽派との軋轢などもあまりなかったという話は興味深い。おそらく互いに接点がなければ衝突もなかったということなのだろう。また、自身の過去の作品について、レーガーやブラームスの影響を思ったことはなく、その独自性について常に自信を持っているという最後の言葉には感動を覚えた。
(Jul. 6, 2024)