キーンツル: ピアノ三重奏曲
Thomas Christian EnsembleのCDを探していて見つけた一品。作曲家も知らないし、ストリーミングでなければなかなか手が出なかっただろう渋い曲だ。
Wilhelm Kienzl: Piano Trio in F Minor Op.13
Thomas Christian Ensemble
(2020)
キーンツルはウィーンなどでそこそこ活躍した作曲家ということで、作曲年代が1880年頃だからまさに世紀末ウィーン、後期ロマン派の全盛期に差しかかる頃である。作曲家の情報がほとんどなく、手軽に見ることのできる範囲では英語版・ドイツ語版のWikipedia程度しか見つからなかった。いわゆる忘れられた作曲家の範疇に入るのではないだろうか。
冒頭、チェロによって情熱を秘めた短調の主題が奏されるあたり、メンデルスゾーンのニ短調トリオと似ているし、全体的にも古典的で均整の取れた曲である。テクニック的にも過大な要求はなく、演奏する方も聴く方も寛いで美しい楽想を楽しむような感じの曲のように思える。若い20代の習作ともいえる作品であるためかベートーヴェン(例えば2楽章スケルツォ)を始め、シューベルト、シューマンあたりのスタイルを忠実に守って書いた真面目さが見て取れるのだが、それだけの作品として忘れられていいかといえば、そうも言いきれない魅力は持っている。
(Oct. 12, 2022)