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// by 折場 捻人

コルンゴルト: ピアノ五重奏曲

ヴォーンウィリアムズの弦楽四重奏曲の回で紹介したティペット四重奏団の録音を出していたSOMM Recordingsレーベルのカタログから、コルンゴルトの室内楽曲集を見つけた。

Erich Korngold: Piano Quintet in E major, Op. 15
Alasdair Beatson (pf)
Eusebius Quartet
(2021)

メインに置かれているピアノ五重奏曲はこれまで聴いたことがなく、調べたところ彼の名を高めたオペラ『死の都』を送り出し活躍の勢いを増していた1922年、25歳の作品。その後いっときシェーンベルクとともにウィーンを代表する作曲家と言われるに至るが、ナチスのオーストリア併合によりアメリカに亡命し、映画音楽の分野で活躍したのはよく知られている通り。

IMSLPで楽譜を見ながら聴いてみたが、非常に手の込んだ力作というべきもので、冒頭からウィーン風の甘口のテーマで誘うものの、そのテーマ周辺からして既に4/4と3/4拍子が不規則に入り乱れた変拍子であり、以降も何やら混沌とした中に様々な工夫を凝らした意欲的楽句が散りばめられていることはわかる。2楽章後半はトリスタン風に盛り上がる。3楽章頭はちょっとだけバルトークっぽい。全体にピアノがかなり忙しく技巧的ではあるが極端ではない。とはいえこれだけのものを弾きこなした上に合わせていくのは大変そうな感じである。ゴツゴツした箇所や口ごもって停滞するような箇所も多く最初はつかみどころのない曲だと思ったが、何度か聴くうちに、そうした部分も結局はウィーン風情緒に帰結するようになっていて、そこに至るまでの手の込んだ装飾のようなものととらえられることがわかってきた。それにしても情緒濃厚で、今歴史の一ページとして鑑賞するのであればともかく、当時のこのような後期ロマン派のどん詰まりの世界のただ中にいきなり押し込められたとしたら、元々あっさり好みの平均的日本人だからそう思うのかもしれないが、ちょっと息苦しくて勘弁してほしいと泣きが入ったかもしれない。(まだこの後にR.シュトラウス最後の天国的世界が待っているわけだが。)

このオイゼビウスQの演奏は全体にゆったりとしていて、特に第1楽章のMäßiges Zeitmaß(中庸の速さで)を守り、すべての楽句を上品かつ明瞭に示そうとするもののように思われる。弦のグリッサンドが官能的。他の演奏、例えば下のアーロンQの演奏はもっと快速で大掴みに要所を押さえ、それ以外をさらっと流している。おそらく、こちらを先に聴いていればもっと曲を容易に理解できただろうが、逆にBGM的に聴いてしまってそれで終わりだった可能性もある。

オイゼビウスQのアルバムはその後『空騒ぎ』組曲(弦楽四重奏版)と弦楽四重奏曲第2番が続くが、これらはどちらも軽く聴きやすい、大曲の後のスイーツ三昧といった趣き。『空騒ぎ』組曲は、かつてギル・シャハムによるヴァイオリン協奏曲(バーバー&コルンゴルト)の有名盤にピアノ伴奏版で収められていたもので、懐かしい。他方アーロンQのアルバムは3つの弦楽四重奏曲全曲の併録(別に六重奏曲他を入れたアルバムも出している)。

Erich Korngold: Piano Quintet in E major, Op. 15
Henri Sigfridsson (pf)
Aron Quartet
(2010)

ピアノがアルゲリッチだったら合うのでは、と検索したら意外にヒットしたので驚いたが、2010年ルガーノのライブ("Argerich and Friends")で、ピアノはアルゲリッチではなく「お友達」の方だった。

Erich Korngold: Piano Quintet in E major, Op. 15
Alexander Mogilewsky (pf)
Alissa Margulis (vn)
Lucia Hall (vn)
Nora Romanoff-Schwarzberg (va)
Mark Dobrinskji (vc)
(2010)

これも快速で、ライブならではの緊張感は凄いが情緒は浅めである。終結部の追い込みなど迫力ある熱演なのに、終了後の拍手が意外と冷静なのが不思議。

(Dec. 3, 2022)