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// by 折場 捻人

レフラー: 一楽章の弦楽五重奏曲

前回取り上げたパウル・ユオンのベルリン高等音楽院での作曲の師であったのはヴォルデマール・バルギールである。そのバルギールの教え子の一人に、チャールズ・マーティン・レフラーという作曲家がいる。ユオンよりも11歳上の1861年生まれで、パリでも学んだあと1881年には米国に移住して、創立間もないボストン交響楽団の次席コンサートマスターになっている。ベルリンにいた時期が重ならないので、おそらくユオンとレフラーとの接点はなかったと思われる。

レフラーの名は、松本大輔氏の『このNAXOSを聴け!』で紹介されていたので知ってはいたが、聴くのは今回が初めてである。下のアルバムもまさにそこで取り上げられていたもので、『弦楽四重奏曲』、『4つの弦楽器のための音楽』、そしてこの『一楽章の弦楽五重奏曲』と、移住先のボストンで作られた3つの室内楽曲が含まれている。いずれも魅力のある曲だし、演奏も録音も悪くない。

Charles Martin Loeffler:
Quintet in One Movement
Da Vinci Quartet
Cora Cooper (vn)
(1999)

『一楽章の弦楽五重奏曲』は弦楽四重奏にヴァイオリンがさらに一人追加されており、そう聞くと以前取り上げたショーソンの『コンセール』からピアノを除いた形を想起するが、ソロヴァイオリンが追加されたわけではなく、あくまでもヴァイオリンの声部を3つに増やしただけであり、かなり特異な試みといえそうだ。初演は1895年、レフラーのいたボストン交響楽団のコンマスだったフランツ・クナイゼルらが結成したクナイゼル四重奏団による。同四重奏団は前年にドヴォルザークの弦楽四重奏曲第12番『アメリカ』を初演したことで良く知られている(なお、ドヴォルザークがアメリカに招聘されたのは1891年、レフラー渡米の10年後である)。

15分ほどの単一楽章の中にとても多くの素材が惜しげもなく投入されているのだが、明るく澄んだ曲調で統一されていてごちゃごちゃした感じにはなっていない。どの主題も分かりやすく、耳に付いて離れにくい類のもの。それらが相次いできびきびと交替していく様は聴いていてとにかく快い。中間部は民謡風になるなど色彩的な変化にも富んでいる。内容の深さでは20年以上後の作品である『4つの弦楽器のための音楽』の方が優るのかもしれないが、『弦楽四重奏曲』も含め、一つのアルバムでそれぞれの持ち味を味わい分けながら聴けるのは本当に楽しい体験である。

 

(Aug. 5, 2023)