モーザー: コンチェルト・グロッソ
前回と同じくスイスの合奏団 I TEMPI による、同国の作曲家ルドルフ・モーザーの弦楽合奏曲とオーボエ協奏曲を入れたアルバムで、例のごとく演奏者のディスコグラフィーをたどって見つけたもの。モーザーは1892年生まれでオネゲルと同年、マルタンよりも2歳下、シェックよりも6歳下であり、彼らとほぼ同時期(20世紀前半に活躍)の作曲家と言えそうだ。モーザーに関する情報はネット上にも少なく、IMSLPにもほとんど楽譜はないし、ドイツ語のWikipediaに若干の記述がある程度で最初はどんな作曲家なのかわからなかったのだが、このアルバムのブックレットのPDFが公開されていて多少なりとも知識を得ることができた。ありがたいことである。モーザーもシェックと同じく、一時ライプツィヒに出てレーガーに作曲を学んだらしい。ちなみに、吉田秀和著『音楽紀行』に1954年ローマで開催された"20世紀音楽会議"というイベントの話が出てくるが、その会議に各国から参加した音楽家のうちスイス代表の一人としてモーザーの名前が挙がっている。
Rudolf Moser: Concerto Grosso
for String Orchestra and Harpsichord, Op. 32
Gevorg Gharabekyan (cond)
Chamber Orchestra I TEMPI
(2020-21)
このアルバムには4曲の弦楽オーケストラのための作品と1曲のオーボエ協奏曲が含まれる。最後に入っている『コンチェルト・グロッソ』はパウル・ザッハー(モーザーに作曲を師事した)の委嘱でバーゼル室内管弦楽団のために作曲されたもの。1927年の作である。題名の通り、ソロ(ここでは弦楽四重奏がソロの役割を果たす)と小弦楽オーケストラの掛け合いで構成された、コレルリのものが抜きん出て有名なコンチェルト・グロッソの流儀で作曲されている。バッハの管弦楽組曲などに見られるフランス風序曲の形式を融合した第1曲に続いて、ガヴォット・ブーレ・メヌエット・ジーグと舞曲が奏される、計25分程の音楽である。確かにスタイルはバロック以外の何物でもないし、フレーズの部品は耳に逆らわない平明なものなのだが、その組み合わせ方はモダンであり、バロック時代でも多少は込められている情感というものを一切表面に出さないよう周到に計算したかのような、ニュートラルで影が少なく、そして終始品の良さを保った不思議な音楽に聴こえる。一緒に入っている他の弦楽合奏作品と曲想の違いが大きくないので、それらをまとめて演奏すると散漫に聴こえてしまうおそれがあるものの、弦楽オーケストラのプログラムの一つとして挿入されればとても聴き映えがするのではないだろうか。
モーザーの録音をもう一つだけ配信で聴くことができた。ピアノ独奏から歌曲までバラエティ豊かである(オーボエ協奏曲のみ上と重なる。但しこちらは伴奏が弦楽五重奏)。ピアノ独奏の『ホノルル・フォックストロット』というまるでクレマン・ドゥーセのような軽い曲まで入っている。
モーザーは『シュピールムジーク』という変わった題名の曲を異なる楽器編成でいくつか書いていて、I TEMPIのアルバムにも弦楽オーケストラのもの(Op. 57, No. 4)が入っているが、こちらにも2曲が含まれ、そのうちOp. 78の方はヴィオラ独奏曲。『無伴奏ヴィオラのためのパルティ―タ』と呼びたくなるような曲である。また、『三つの歌曲』Op. 14の第1曲、William Wolfensbergerという人の詩に付けた『嘆き(Klage)』は、ほんの1分半ほどの短いものだが素直な味わいがある。
Rudolf Moser: 3 Lieder, Op. 14
Andrea Suter (S)
Jan Schultsz (pf)
(2009)
(Jul. 8, 2023)