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// by 折場 捻人

シェック: 夏の夜

引き続きシェックの器楽曲から、今の時期にふさわしい『夏の夜』という題名を持つ弦楽オーケストラのための曲(Pastoral Intermezzo)を取り上げる。

Othmar Schoeck:
Sommernacht, Pastoral Intermezzo
for String Orchestra, Op. 58
Chamber Orchestra I TEMPI
(2017)

1945年という作曲時期にも関わらず主流の前衛音楽の流れからは完全に距離を取った、ひたすら優しい旋律と響きに満ちた曲である。一部エルガーを思わせる所もある。また、『夏』、『パストラル』とくれば同じくスイス出身のオネゲル『夏の牧歌(Pastorale d'été)』が思い起こされる。シェックは1923年(『夏の牧歌』発表の3年後)にパリでオネゲルに会っているらしいので関連があるのかと思ったが、そうではなく、この『夏の夜』というのは、曲の下敷きとされたゴットフリート・ケラーの詩の題名であるらしい。その詩に当たってみればわかる通り、漠然と夏の夜を描写したわけではなく、麦秋にまつわるちょっとした農村伝説が主題になっている。

それにしても、1945年という第2次大戦終結の年にこのような罪のない曲を書いたり演奏したりしていたとは、さすが中立国らしいと最初呑気に考えたのだが、歴史を見返すとさにあらず、実際には周囲をドイツ・イタリアに完全に囲まれ、ドイツ軍が侵攻してくる寸前という危機的な状況に置かれ、国民総動員に近い緊張状態にあったとのことである。ドイツ降伏により危機が乗り越えられた後、戦禍を免れた国でこのような幸福感に満ちた曲が出来たのは尤もなことで納得できる(この際1945年夏の極東の状況を言ってみても仕方ないだろう)。

シェックの作品のほとんどは歌曲であり、フィッシャーディースカウのヘッセ歌曲集をはじめ録音もたくさんあるとはいえ、全300曲以上というその量(全集もある)に加え、Spotifyでは歌詞も訳詞も見られないのでちょっと聴く気にならない。アプリには歌詞表示機能もあるはずなのだが……

Othmar Schoeck: Hermann Hesse Lieder
Dietrich Fischer-Dieskau (Br)
Karl Engel (pf)
(Released 1977)

(Jul. 1, 2023)