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// by 折場 捻人

リムスキーコルサコフ: シェヘラザード(室内楽編曲版)

スイスつながりということで、チューリッヒの室内アンサンブルによる『シェヘラザード』の編曲があったので聴いてみた。原曲にできるだけ忠実に、全4楽章をクラリネット+ピアノトリオという編成(メシアンの『世の終わりのための四重奏曲』の編成である)にリダクションしている。

Nikolai Rimsky-Korsakov:
Scheherazade, Op. 35
(arr. Florian Noack & Benjamin Engeli)
Zurich Ensemble:
Fabio Di Càsola (cl)
Kamilla Schatz (vn)
Pi-Chin Chien (vc)
Benjamin Engeli (pf)
(2013)

例えばピアノ編曲の場合、このように原曲を忠実になぞってしまうと、異なる楽器でフレーズを繰り返す所も同じ音の繰り返しで冗長になってしまうのはどうしようもないのだが、管・弦・ピアノの組み合わせによりそういった問題はほとんど感じない。オーケストラが最大の迫力で鳴らす部分など、もちろん音響的な効果という点では及ばないものの、原曲の曲想のモデリングには十分成功していると思う。むしろ、たった4人でここまでできるのかと驚かされる。おそらくいずれも相当な名手なのだろう。生真面目で清潔感のある演奏である。第4楽章の船の難破の箇所ではタムタムの一撃の模倣のようなことはせず、そのためクラリネットのHの持続音が背景から前景へと移動し、4小節に渡って長いデクレッシェンドをかけながら音を保持して存在していることに気付かされたのは面白かった。そのほか、最後のヴァイオリンソロの(開放弦の2オクターブ上の)Eは原曲ではフラジオレットだが、この演奏では最後だけハイポジションの実音を弾いている(オケ版でも同様に実音にしている録音はある)。おかげで印象的なヴィブラートが聴けるのだが、結構伸ばさなければならない上に曲を締める重要な音だけになかなか神経を使う場面かと思う。

ちなみにピアノ編曲版では、全曲から自由に取捨選択してヴィルトオーソ系の編曲を行った、セルゲイ・クルサノフ編曲版というものもあり、昔買った楽譜が手元にある(YouTubeでニコライ・トカレフによる演奏が聴ける)。これはコーダ部分でシェヘラザードが救われない感じの非常に後味の悪い編曲なのだが、このようなダイジェスト版では王に改心させるには程遠いということであろうか。

このチューリッヒ・アンサンブルのアルバムには他にセルゲイ・ボルトキエヴィチのバレエ音楽『千一夜物語』の抜粋と、ハチャトゥリアンの『クラリネット三重奏曲』が入っている。前者は『シェヘラザード』と同趣向、部分的には一層エキゾティックかもしれない。後者のハチャトゥリアンは好みの作曲家ではないのだが、この曲は初期(モスクワ音楽院時代の作)のものであるためか、民族音楽的音色やリズムもまったく強烈な感じではなく、むしろ旋律の幻想味が美しく、ハチャトゥリアンの珍しい室内楽曲ということもあり、気に入ってしまった。

 

(Jul. 22, 2023)