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// by 折場 捻人

ウォルトン: ヴァイオリンソナタ / ピアノ四重奏曲

1902年生まれのウォルトンとなると、それまでの英国新ロマン主義の作曲家達とは明確に一線が引かれる感がある。30年ほど前、ロンドン・シンフォニエッタの演奏する『ファサード組曲』が入ったCDを、どういう経緯だったかまったく思い出せないのだが、おそらく友人の薦めで聴いたのが初めてだったと記憶する。当時はそれきりで特にウォルトンに興味を持つことはなかった。今考えても、この斬新で風変わりな曲だけでウォルトンの作品のただ中に入っていく気になるためには、相当耳が肥えていないと難しいのではないかと思う。ほぼ同時期に、当時まったく目に入ってこなかったのだが、Chandosレーベルからウォルトンの録音がシリーズ物として次々に出ていたようだ。いまさらながら今回取り上げるのはその中のひとつ、戦後1949年にメニューインとルイス・ケントナーの委嘱により作曲された『ヴァイオリンソナタ』と、10代の終わり頃の作品である『ピアノ四重奏曲』を組み合わせたアルバム。

William Walton: Violin Sonata
Kenneth Sillito (vn)
Hamish Milne (pf)
(1991)

2楽章から成る『ヴァイオリンソナタ』は、冒頭からやや繊細で憂鬱な雰囲気を漂わせ、前に進むのをためらうのか、いちいち確かめながら進むのかといった暗中模索感に聴く方も迷子になりそうになるものの、ウォルトンの性格なのかどうか知らないが、基本的に陽性であり、聴き疲れしないのがよい。もちろんそれだけでなく、非常に美しいのだが。第2楽章、変奏曲のテーマは第1楽章同様うねうねしたもので、それが変奏を重ねる中で見せる雰囲気の交替も鮮やかだし、コーダでそれまで細かい変化に集中していた意識を一気に開放させられるあたりは忘れ難い印象を残す。

『ピアノ四重奏曲』は溢れんばかりのエネルギーがそこかしこで暴れだすようで非常に聴き応えがある。当時のモダニズムの影響を明らかに感じさせる、隙の少ない曲である。その一方第3楽章ではロマンティックな顔も見せており辛口一辺倒でないのがありがたい。上のソナタともども相当に技巧的で、演奏効果は抜群だと思う。Naxosからもピーター・ドノホーの強靭な打鍵が聴ける録音(下)が出ていて、これもいい演奏なのだけれども、上のアルバムは同水準のメカニカルな安定に加えて音色の瑞々しさがあり、そこが何より魅力的。

William Walton: Piano Quartet
Maggini Quartet
Peter Donohoe (pf)
(1999)

 

(Nov. 18, 2023)