ハウエルズ: 弦楽四重奏曲第3番『グロスターシャーにて』
前回書ききれなかった、ハーバート・ハウエルズの室内楽曲を。まさにイングランドの風土と切っても切り離せない部類の、若々しく秀逸な音楽だ。
Herbert Howells: String Quartet No. 3
"In Gloucestershire"
Dante Quartet
(2017)
こちらの『弦楽四重奏曲 第3番』は "In Gloucestershire" と題されている。20代後半の作品(後に改訂された)。グロスターシャーはハウエルズの故郷だった。第1楽章冒頭主題はまさに「望郷」という感じの、その美しさに引き込まれる音楽。繰り返し聴きたくなる。第4楽章は前回の『弦楽合奏のための協奏曲』と共通するリズミカルで心地よい踊りの音楽と、やや暗鬱で不安定な部分とが交錯しつつ、冒頭のテーマに収束する。しかしこの作品の重心は、ヴォーン゠ウィリアムズ『弦楽四重奏曲 第1番』の影響が特に強く感じられる第3楽章にあるのかもしれない。鄙びた陰影の深い旋律や豊かな和音の柱など、この楽章に限らず全体的な印象も含め、ヴォーン゠ウィリアムズのその辺りの作品の系統に連なる曲に出会えて嬉しい。アルバム後半、親友だったアイヴァー・ガーニーに捧げられた『ピアノ四重奏曲 イ短調』も同時期・同傾向の作品。献辞は "To the Hill at Chosen and Ivor Gurney who knows it" となっている。抒情的で色彩感にもあふれた曲。特に優しくロマンティックな第2楽章は絶品。なお、このアルバムは前半と後半とで演奏団体が異なり、『ピアノ四重奏曲』の演奏は、クラークの『ピアノ三重奏曲』他のアルバム(少し前に取り上げた)も出している Gould Piano Trio が受け持っている。
Herbert Howells: Slow Air for Violin & Piano
Rupert Marshall-Luck (vn)
Matthew Rickard (pf)
(2013)
もうひとつ、こちらはEM Recordsレーベルの2枚組のアルバムで、ヴァイオリンとピアノのための作品全集になっている。どれも『弦楽合奏のための協奏曲』以前の若い頃の作品である。同様のアルバムはHyperionからも出ていたが、このアルバムは習作の『ヴァイオリンソナタ ロ短調』を異稿付きで含めたり、『ヴァイオリンソナタ第2番』が全4楽章復元版であったり、さらには初録音の小品を加えたりしていて、かなりこだわったものになっている。その立派なヴァイオリンソナタの林立する間にひっそりと咲く草花のような『スロー・エアー』(これも初録音らしい)が良かった。2分ほどの単純な曲だが、自由に流れるままに続いていく長い旋律線が心地よい。
(Nov. 11, 2023)