イザイ: ショパン編曲集
イザイがショパンのピアノ曲を編曲していたとは知らなかった。このアルバムには『バラード第1番』『幻想即興曲』に加え、ワルツ選(8曲)という、すべてイザイによる編曲が収められている。いずれも超有名曲であるが、ヴァイオリンで弾いておいしい所だけをつまみ食いするのでなく、原曲の構成をあまり歪めずに、主旋律をヴァイオリンに移しているのが特徴だろう。そうはいっても、全体の移調をはじめ、音域などの制約からくるパッセージの変更・簡略化などはある。曲によっては大幅な加筆も行っている。だが、大部分は「そこまで?」と思ってしまうくらい忠実な置き換えになっている。
Frédéric Chopin: Ballade No. 1
in G Minor, Op. 23
(Arr. for violin by Eugène Ysaÿe)
Tor Johan Bøen (vn)
Eirik Haug Stømner (pf)
(Released 2023)
特に興味深かったのが『バラード第1番』で、飽きるほど聴いてきた曲にまだ新しい良さを見つけられるというのは幸せなことである。重音が多く出てくるせいか、部分的には何となくヴィエニャフスキの『レゲンデ』を思わせる。最初聴いたとき、中ほどのスケルツァンドの細かい部分もちゃんとヴァイオリンが弾いていて原曲からまったく逸脱しないので、このまま最後のプレストもヴァイオリンでやるのかとわくわくしていたら全くその通りであり、しかもコーダのスケールまで(上行2度目はちゃんと3度差で)しっかり再現(?)するので、つくづく驚かされた。この曲はIMSLPでイザイの手稿が見られるほか、日本版の出版楽譜もあるようだ。ノルウェー人のこのヴァイオリニストは、線は細いがたっぷりとした呼吸で歌う(細かい所はちゃんと弾けていなかったりするが、誤魔化す風でもなく不快ではない)。単にピアノ版をなぞっただけというのではなく、この編曲の持つ音色による独特の雰囲気を引き出そうとする姿勢が好ましい。
『幻想即興曲』は中間部以外はまったくヴァイオリン向きではないので苦労のわりに演奏効果は上がらなさそう。ワルツの中では2曲目に置かれた、原曲12番(ヘ短調、Op.70の2)が素晴らしい。ヴァイオリンで弾かれることによって旋律に輝きが生まれている。ノクターンのヴァイオリン編曲だと甘すぎて連続では聴いていられないのだがワルツだとそうでもなく、他の曲もなかなかである。
(Mar. 11, 2023)