ラザーリ: ヴァイオリンソナタ
ある日、『ヴァイオリンの魅力と謎』という昔買った本を読み返していたところ、以前このブログで取り上げたキーンツルのピアノトリオのアルバムに一緒に入っていた作曲家ラザーリの名がひょっこり顔を出したので驚いた。イザイに触れた項で、次のように書かれている(*1)。
彼(イザイ)は自分に捧げられたソナタについて次のように語っている。「…(略)… フランク、ダンディ、デュボワ、ルクー、ヴィエルヌ、ロパルツ、ラザリのソナタは、強い表情を持っていると同時に名人的である。ヴァイオリン・パートは、愛らしい歌の線を展開する。しかしそのテクニックは決して容易ではない。…(略)… ルクー、ラザリ、フランクなどのソナタの演奏は、二人の優れた芸術家を要求する。というのは、ピアノ・パートがときどき非常に念入りに書かれているからである。」(佐々木庸一著『ヴァイオリンの魅力と謎』p.175)
さっそくラザーリのヴァイオリンソナタの録音を探したところ、Calliopeレーベルの下記のアルバムが見つかった。ヴァイオリニストは知らなかったが、ピアニストのアニー・ダルコの方は同じレーベルから出していたサン゠サーンスのエチュードのLPを持っていたのでおなじみだ。
Sylvio Lazzari: Violin Sonata in E major,
Op. 24
Michel Benedetto (vn)
Annie d'Arco (pf)
(Released 1975)
ラザーリはオーストリア生まれでウィーンで弁護士として活躍する傍ら歌曲などを書いていたが、後にパリ音楽院で作曲を学び、このソナタを書いた頃にフランスに帰化したとのこと。世代としてはショーソンの二つ下、イザイの一つ上である。このソナタもフランス風の「歌」に溢れた、聴いていて気持ちの良い曲である。三つの楽章を貫く循環主題も用いられている。第3楽章の3度和音で上がって下る音型による明るいテーマは特に耳に残る。
上の演奏は全体的に速めのテンポで、やや冗長な所もあるこのソナタをうまくまとまりのあるものにしていると思う。ただ、最後に数ページ(ピアノ譜で)にも渡る思い切りのよいカットがある。その冗長さを救うためか、あるいは慣習的カットなのか、はたまたLPの片面に収めるためか、いずれにせよさして違和感のあるものではない。
このアルバム以外にも少なくとも2種類の演奏を聴くことができる。
Sylvio Lazzari: Violin Sonata in E major,
Op. 24
Jacques Duhem (vn)
Madeleine Virlogeux (pf)
(Released 1996)
Sylvio Lazzari: Violin Sonata in E major,
Op. 24
Ilona Then-Bergh (vn)
Michael Schafer (pf)
(2009)
Then-Bergh/Schaferの演奏は、第1楽章主部のテンポがAllegro ma non troppoであるのに忠実なのはいいとして、指定のない速度操作を(おそらく意図的に)忌避しているため、曲の停滞が目立ってしまっているように思う(例えば第1主題後の推移部の畳み掛けるパッセージや、展開部で符点リズムが連続する箇所など)。音は3種類の中で最も美しいのだが。
-
元は"Violin Mastery - Talks with Master Violinists and Teachers" (Frederick H. Martens)という1919年出版の本にあるイザイへのインタビューが出所である。翻訳もあるが、英語版はProject Gutenbergで見ることができる。
(Mar. 4, 2023)