アイスラー姉妹へのオマージュ(ヴァイオリンとハープのための室内楽曲集)
Hommage aux Demoiselles Eissler
Frances Mason (vn)
Jenny Broome (hp)
(2018)
これは、トーメ(F. Thomé)の『アンダンテ・レリジオーソ』の音源を探していて見つけたもの。同曲はヴァイオリン学習用の曲として一部で有名だが、一般にはあまり知られていない小品ではないだろうか。『タイスの瞑想曲』のような曲だと思っていただければ間違いない。ここではハープとのデュオで奏されており、同様のサロン小品を集めたアルバムになっている。昭和時代なら音楽誌に「ワイフへのおみやげにいかが」とでも書かれたかもしれない甘口のアルバムなのだが…
そもそもアルバムタイトルのアイスラー姉妹とは誰なのか?ネット上のきわめて限られた情報によると、モラヴィア出身でウィーンで音楽を学んだ演奏家4姉妹、そのうちヴァイオリニストのMarianneとハーピストのClaraのデュオが19世紀末から20世紀初頭にヨーロッパ中で人気を博したということである。前項で取り上げたブルックナーの交響曲の共同編曲者でもある有名な作曲家ハンス・アイスラーとは無関係らしい。サン゠サーンスが彼女らのために"Fantaisie"を書いたことで音楽史に残っている(このアルバムにも入っている)が、その人気だったという演奏会のことは今日ほとんど忘れ去られている。このアルバムはそんな女性デュオが当時どんなレパートリーで演奏会を行っていたかを当時の新聞などから拾いだして再現しようとした学術的なものであるらしい。「おみやげ」云々と軽く扱うのは間違いだろう。
『アンダンテ・レリジオーソ』を聴くと、最後にフォルテで繰り返されるテーマ部分で、ヴァイオリンがもうちょっと頑張ってほしいと思ったりする。FONTECの国内盤『ヴァイオリン学生協奏曲集』というCDでの篠崎功子の演奏の方が楽器が歌い切っておりドラマティックで良かったのだが、よくよく考えて見るとあまりにもヴァイオリン中心の聴き方になってしまっていたのではないか、伴奏をほとんど背景くらいにしか見ていなかったのではないか、という気がしてきた。いや、ピアノパート(ハープ版もほぼそれをなぞっている)は確かに伴奏の域を出るものではないのだが、それでもこれはハープとの「デュオ」なのである。ハープとの音の溶け具合を楽しむべきではないのかと思って聴きなおすと、その豊かな響きがちゃんと聞こえ、この柔らかなスタイルの良さがわかってきた。
(Oct. 18, 2022)