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// by 折場 捻人

マルタン: ピアノ五重奏曲

『小協奏交響曲』(1944-45)などでよく知られているスイスの作曲家フランク・マルタン、その初期作品であるピアノ五重奏曲を聴いてみた。1919年の作、セザール・フランクが思いがけない事故が元で世を去ったのと同じ1890年の生まれだから、29歳の時である。この前年にマルタンは結婚してチューリヒに居を構えており(すぐに転居を繰り返し、ほどなくして離婚するのだが)、この五重奏曲はその新婚の妻に献げられている。

後年の『小協奏交響曲』も馴染めば全然難しい音楽ではないが、この曲はさらに古典的で親しみやすく、しかも30分に満たない長さであるにも関わらず見せ場・聴き所も多く用意されている。空気を切り裂くような弦によるテヌートによって開始され、じんわりと情感を揺さぶってくる第1楽章、チャーミングなメヌエットの旋律が印象的な第2楽章、悲歌の中から一転、翼を広げて大きく息をする感じの、弦楽のみによる中間部が美しい第3楽章、そして明るいヴァイオリン二重奏に始まる民謡を思わせるテーマを持ち健康的・技巧的に展開する第4楽章、というように全体的に明暗の対比が秀逸で飽きさせない。また、陰鬱な部分があっても不思議とまとわりついてくる風のものではなく、音色に軽さがあるのは『小協奏交響曲』にも通じるマルタンの個性かと思われる。

下はごく最近出されたアルバムで、フランクのピアノ五重奏曲との組み合わせ。とてもうまい。ちなみに来年(2024年)はマルタンの没後50年に当たるので、これから演奏機会も増えるのではないだろうか。

Frank Martin: Piano Quintet
Martin Klett (pf)
Armida Quartett
(2022)

もう一つ、結構前の録音ではあるがマルタンの室内楽曲だけを集めた下のアルバムも貴重。五重奏曲はこれら2種類しか配信では見つからなかったが、弦楽三重奏曲を除く他の収録曲(パヴァーヌ『時の色』と『アイルランド民謡による三重奏曲』)は探せば結構録音があるようだ。

Frank Martin: Piano Quintet
Hanni Schmid Wyss (pf)
Die Kammermusiker Zürich
(1989-90)

 

(Jun. 17, 2023)