シェック: ヴァイオリンソナタ第1番
前回のマルタンに続き、スイスの作曲家オトマール・シェックを取り上げる。マルタンがスイスの中でもフランス語圏の出身であるのに対し、シェックはドイツ語圏で、ライプツィヒでマックス・レーガーに学んだこともあるとのこと。年代的には1886年生まれ、アルバン・ベルクの1つ下である。
下のアルバム、ヴァイオリンのUrsula Bagdasarjanzは母親がシェックの指揮するオーケストラで弾いていたという縁を持ち、またピアノのGisela Schoeckは他でもないオトマールの実娘であるということで、シェック作品の録音中でもひときわ重要な意味を持つ。録音は年代なりの質ではあるが聴きにくくはない。演奏の方は、ヴァイオリンソナタ第1番に顕著だが、戦前のティボーを思わせるような、現代ではなかなか聴くことのできない個性的なアゴーギクなど、失われた何かを思い起こさせるような部分が多々ある。それほど昔の人ではない(1934年生まれ)のにスタイルはまさに古き良き時代のもの、思いがけない貴重な録音だった。
Othmar Schoeck:
Violin Sonata No. 1, D major, Op. 16
Ursula Bagdasarjanz (vn)
Gisela Schoeck (pf)
(1961, Remastered 2008)
シェックのヴァイオリンソナタ(たいていは第1、第2番と作品番号無しの初期作品の3つを含む)の録音は意外に多く、配信でも少なくとも5種類はある。このClavesのアルバムは音質も良く、上のアルバムと共にもっとも心に沁みるものだった。短い第1楽章には、中間部で嬰ハ短調の新しいテーマをピアノ先導で奏する、ロマン派全開のようなクライマックスがあるが、その箇所およびそこになだれ込む運びが素晴らしい。よりモダンな第2番でも、とりとめのない旋律と和声で構造から気を逸らされがちになるせいか、かえって際立ったヴァイオリンの美音が印象に残る。
Othmar Schoeck:
Violin Sonata No. 1, D major, Op. 16
Simone Zgraggen (vn)
Ulrich Koella (pf)
(2004)
(Jun. 24, 2023)