メンデルスゾーン: ピアノ三重奏曲第1番
メンデルスゾーンの有名なピアノトリオだが、ピアノの比重が大きすぎるのが玉にキズとよく言われる。メンデルスゾーンが自らのピアノ演奏でその華やかさをアピールしたかったことは明らかだ。対して弦パートには歌はあるものの技巧的な見せ場がほとんどなく、ただ弾くだけなら初見でも問題ない簡素さで、あまりにもピアノが音で圧倒してくると気持ちも萎えてくるのではないだろうかと心配になるくらいである。
とはいえそれなりの演奏であれば、ノンペダルや軽めのタッチを使うなどしてピアノが弦楽器をかき消すようなヘマはしていないものだ。しかしながら、あまりにも気を使ってピアノを抑えるのは本末転倒な気もする。そんな中、ひょっとしてメンデルスゾーンが意図していたバランスはこうだったのではないかと思えるような、ピリオドスタイルの演奏があった。
Felix Mendelssohn: Piano Trio
in D minor, Op.49
Alte Musik Köln
Tobias Koch (fortepiano)
(2009)
フォルテピアノといっても色々あるだろうが、ここで使われているのは柔らかい木質の音だが現代のピアノと比べて総合的な音質では違和感の少ない楽器のようだ(1835年製Heinrich-Kisting)。ただ当然音の減衰が速いから音数の多いパッセージでも非常に風通しがよい。結果としてごく自然に、ピアノがその全開の華やかさを犠牲にせずともヴァイオリンとチェロの歌が対等かつ十全に響くことになる(どちらかというと後者が主役と言ってもよいくらい)。メンデルスゾーンがこの曲で意図したのが、二台の弦楽器による美しいハーモニーをピアノの細かいパッセージによって華やかに彩ることだったと確信することのできる演奏である。
(Oct. 30, 2022)