サン゠サーンスのピアノ編曲
特にどうということもなく、ジャン・フランセのピアノ曲の音源を探していたところ、Martin Jonesというピアニストのアルバムに行きあたったのだが、この人のディスコグラフィーを見ていて、昔CDで買ったコルンゴルトのピアノ曲集を弾いている人だと気づいた。そういえばそのCDは4枚組の大部だったが中身はほとんど印象に残っていないな、などと考えながらそのディスコグラフィーに大量に挙がっている他のアルバムを見ていると、サン゠サーンスのピアノデュオ作品を集めた2巻のアルバムがあった。注目したのはその中に『七重奏曲』の作曲家による2台ピアノ編曲があったからだ。
Camille Saint-Saëns: Septet in E-Flat Major,
Op. 65 (For 2 pianos)
Adrian Farmer, Martin Jones (pf)
(2016)
さっそく聴いてみたら全曲ではなくメヌエットとガボットの2曲だけの抜粋であった。メヌエットのトリオ部が単純な音楽だが特別に好きな箇所なのでこれでも満足なのだが、IMSLPによると作曲家自身の編曲としてはこの2曲抜粋版しかなく、これとは別にフォーレが全曲を連弾用に編曲しているらしい。さらに検索するとフォーレ版の録音も見つかった。
Camille Saint-Saëns: Septet in E-Flat Major,
Op. 65 (Arr. for piano 4 hands by Fauré)
Tomas Daukantas, Vilija Poskute (pf)
(2017)
比較するのも何だが、精密度と彫りの深さでこちらの方が文句なしに優れた演奏だ。一緒に入っている『死の舞踏』もダイナミックで良い。(『死の舞踏』のあとに七重奏曲冒頭のEs Durの和音が鳴った一瞬、『星条旗よ永遠なれ』が始まった??となるのは、かつてよく聴いたホロヴィッツのLP曲順の刷り込みによる条件反射だ。)同じ奏者でサン゠サーンスの編曲物が3枚ほど出ているのだが、Vol.1 にあるドビュッシー編曲による『序奏とロンド・カプリチオーソ』は魅力に乏しく残念な編曲である(演奏のせいではない)。これはドビュッシーがまだサロン風の曲しか書いていなかった頃の編曲ということもあるだろうが、その後サン゠サーンスとは反目するようになったことだし、どういう経緯で作られたのかちょっと気になる。
サン゠サーンスのデュオ作品は意外に沢山あるようで、中には『交響曲第3番(オルガン付き)』を作曲者が2台ピアノに編曲したものもあるらしい。普段から2台ピアノの曲はあまり手を出さないのだが、これはちょっと興味がある。で、探してみたのだが見つからなかった。引っ掛かったのはごく最近出たカツァリスによる独奏版。
Camille Saint-Saëns: Symphony No.3 in C Minor,
Op. 78 (Arr. for piano by Goetschius/Katsaris)
Cyprien Katsaris (pf)
(2020)
カツァリスといえば技巧派として有名なピアニスト。だが、遥か昔にベートーヴェンの交響曲のリスト編曲版を出していた頃の印象のままで、個人的には時々まるで手で払いのけるようにパッセージを処理する(あいまいに弾き飛ばすという意味ではない)のがどうも好みでなかったし、周りにもファンがおらず、今まで視界に入って来なかったのだが、現在までにこんなに大量にアルバムを出していたとは知らなかった。もったいないことをしていたものである。
それにしても、1951年生まれだから録音時ほぼ70歳。最初聴いたときは自由闊達な弾きぶりと迫力に感銘を受けるばかりで歳のことなど考えにも上らなかったが… 凄い人もいるものだ。
(Nov. 3, 2022)