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// by 折場 捻人

ライネッケ: 弦楽四重奏曲第5番

19世紀後半にライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の楽長を長くつとめ、ライプツィヒ音楽院の院長にもなったライネッケは、名前や業績がよく知られているわりに作品に接する機会が少なく、どんな人柄だったかを知る手がかりとなるような逸話の類も聞いたことがない謎の作曲家というくらいに思っていた。昔、まだ輸入楽譜などどうやって入手すればよいかわからなかった子供の頃、全音が出していたベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番の楽譜の付録にライネッケの作曲したカデンツァが付いていたのが最初の出会いで、このカデンツァはベートーヴェンのものよりエレガントで好きだった。その後、御多分に漏れずフルートのソナタや協奏曲は好んで聴いていたが、大体そこまでで終わってしまっていた。今更ながら配信でピアノ五重奏曲、同四重奏曲、同三重奏曲、チェロソナタと、昔より遥かに豊富にある録音を漁っていったところ、『ピアノ三重奏曲第1番』など結構華やかで惹かれる曲もある。きっと地味だろうと思いつつ後に回していた弦楽四重奏曲集(全5曲)もそんなことはなく、ヴァラエティに富んださすがの力作揃いだった。特に晩年の作品である『第5番』。第1楽章の大胆さ、第2楽章の情感に富んだ美しさ(緩徐楽章は他にも素晴らしいものが多い)、第3楽章の紗の掛かった愉悦、第4楽章の情熱と抑制、そしてコーダの華やかさと、全般に隙がなく風格が備わっている。他の4曲もいずれも個性的であり、どっしりとした響きの重層が魅力的。響きといえば、何よりこの演奏は良く考えられた澄んだ音色とバランスが秀逸であり、そこそこの長さのあるこれら5曲を飽きずに聴かせるためにはそれも欠かせない要素なのかもしれないと思わされた。

Carl Reinecke: String Quartet No. 5
in G Minor, Op. 287
Reinhold Quartett
(2018)

もうひとつ、カツァリスがオーケストラパートをピアノで弾いた『ハープ協奏曲』という変わり種があった。これはしばらく前にカツァリスの近年の録音を辿っていたときにみつけたものである。他の独奏楽器だと普通だがハープの場合も合わせのためにピアノ伴奏で弾くことがあるのだろうかと気になってしまう。この協奏曲は全編にわたって何よりハープの魅力を味わうべき作品なので、ピアノ伴奏でもそれほど曲の印象は変わらない。それでもピアノの音がハープのそれと溶け合いかけている特異な感触は伝わってくる。とはいえ、両楽器の組み合わせでどこまでの表現が可能かを探る意図がこのアルバムにあるのだとしたら、むしろこの協奏曲以外の、例えばラフマニノフの二台ピアノのための『第1組曲』からの抜粋(ふんわりとした夢幻的な響きがうまく添加されている)などの方が成功している気もする。二台ピアノのひとつをハープに置き換えようなどと、よく考えつくものだ。弾いていてハープの響きが聴こえたのだろうか。

Carl Reinecke: Harp Concerto
(Orchestra part arranged for Piano)
in E Minor, Op. 182
Isabelle Courret (hp)
Cyprien Katsaris (pf)
(2017)

 

(Mar. 16, 2024)