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// by 折場 捻人

タネーエフ: ピアノ四重奏曲

セルゲイ・タネーエフは、ロシアの1905年革命の影響によりモスクワ音楽院の職を辞することになった後、自らピアノを受け持って演奏するための室内楽曲をいくつか書いた。このピアノ四重奏曲もそのひとつで、50歳頃の作品ということになる。最初聴いたとき、第2楽章のテーマに聞き覚えがある気がしたのだが、アメリカのスタンダードナンバーである『ブルー・ムーン』とフレーズのはじまりが同じであるようだ。もちろんタネーエフの方が先である。この魅惑的な旋律が全体から浮いているような印象もしばらく繰り返して聴いているうちに消え、ちょっと長めではあるものの巧妙に作られた作品だと思えるようになった。

下はタネーエフの主要なピアノ入り室内楽曲を聴くことのできるアルバム。『ピアノ四重奏』については、速めのテンポを取ることで、特に第1楽章における分裂した一面(マーラー作品と同じような意味で)を健全な方向にまとめているように思う。作曲者の指定テンポも相当高速で、それに忠実なのかもしれない。第3楽章の込み入った箇所も軽々と駆け抜けている。

Sergei Taneyev: Piano Quartet
in E Major, Op. 20
Anna Zassimova (pf)
Laurent Albrecht Breuninger (vn)
Julien Heichelbech (va)
Bernhard Lörcher (vc)
(2011)

この曲の録音も結構沢山見つかるが、最初に聴いたのは下のアルバムだった。第1楽章冒頭、ピアノの序奏に続いて弦で奏されるテーマにはヴァイオリンとヴィオラによるかなりのハイポジションのオクターブがあって、この演奏ではやや苦しそうに聴こえる。とはいえ全体的にはどっしりと風格があって悪い演奏ではない。なお、このアルバムにはユオンの同編成の曲(『ラプソディー』)も入っている。タネーエフはユオンが西ヨーロッパに出る前、ロシア時代の最初の師だったので組み合わされているのだろう。また、アンコール風に最後にボロディンの『だったん人の踊り』の編曲も入っていて、それも気が利いている。

Sergei Taneyev: Piano Quartet
in E Major, Op. 20
Ames Piano Quartet
(Released 2000)

Ames Piano Quartetはアメリカのアイオワ州立大学の教授によるアンサンブルとのこと。アメリカの総合大学には結構音楽学部があって、こういうアンサンブル・イン・レジデンスのような地位を提供していたりする。アメリカは地方でも総合大学に音楽学部があることが多い(実態がどうだかまでは知らない)が、日本では都市部でさえ一部例外を除き皆無なのではないだろうか。高校までは音楽の授業が選択であったのに大学では一切なくなってしまうのも今思えば不思議なことである。音楽学部があって、人文・社会科目の一部として、あるいは基礎的な音楽理論や音響理論の講義、さらには実技の科目などを一般にも提供していて、それらが第三外国語あたりと並んでいたとしたら、きっと選択していたことだろう。もっとも趣味でやるからこその楽しさというものもあって権威主義的にならない良さを持っているので、そちらの形態も大切にしたいものである。

 

(May 18, 2024)