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// by 折場 捻人

ヴィラロボス: ヴァイオリンソナタ第2番・第3番

ヴィラロボスといえば、子供の頃NHKのテレビ番組でピアノ組曲『赤ちゃんの家族』のライブ演奏を見たことがあった。変なタイトルだったので強く印象に残ったものと思われる。NHKクロニクルというサイトで調べたら、この番組は1978年7月1日/2日に放映されたもので、演奏はネルソン・フレイレ、メインプログラムはラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。時期的にも符合するのでこの番組で間違いない。当時はラフマニノフが目当てだったはず。しかしそちらの演奏の印象はさっぱり残っておらず、ヴィラロボスの小品の方が脳裏に刻まれるとは不思議なものである。一緒にバッハの平均律第1巻の第2番も弾いていたと思っていたのだが、番組詳細には書かれていなかった。他の番組の記憶と混ざってしまったのだろう。

前回取り上げたロベルト・シドンのアルバムに含まれるヴィラロボスのソロ曲集は、このフレイレとほとんど同時期に出たもの。シドンの方はその後ヴァイオリニストのジェニー・アーベルと組んでヴァイオリンソナタ集を出している。

Heitor Villa-Lobos: Fantasy Sonata No. 2
Op. 49
Jenny Abel (vn)
Roberto Szidon (pf)
(1982)

アーベルとシドンのデュオは他にもシューマンのヴァイオリンソナタ全集も出していた(こちらはSpotifyにはない模様)。いずれも録音された音が独特で、音質は悪くないのだが残響が多くて奏者がやや遠く聴こえる(とくにヴァイオリン)。天井が高くて石造りの会場だとこうなるだろうかという感じの音である。ピアノにとってはそれほど悪条件ではないのだが、ヴァイオリンは美しいけれども芯のない音に聴こえてしまう。最初聴いたとき、水をイメージさせる音だと感じた。なぜかは分からない。

『ヴァイオリン・ソナタ第2番』はヴィラロボス初期の作品。彼の代表的な作品群に比べれば決して傑出しているとは言えないけれども、3曲の中で最もまとまりが良く、奏者も弾きがいがあるのではないだろうか。特に第2楽章は美しさに溢れている。いわゆるヴィラロボスらしさは少ないかもしれない。

単一楽章の『第1番』は、ちょっとわざとらしさを感じるものの意欲作だ。『第3番』は1952年頃のリカルド・オドノポソフの演奏も見つかる。そちらはピアノが伴奏に徹してヴァイオリニストの方をあからさまにフィーチャーするする意図が感じられるバランスの録音なのだが、そうして前面に出たヴァイオリンを中心に聴いていると(第1楽章の特徴的なグリッサンドも抑え気味で、時代的に多用されるポルタメントのひとつのようになっている)、ドビュッシーのヴァイオリンソナタとの類似性を感じる。ヴィラロボスは、パリに留学したときにコクトーにドビュッシーの模倣だと言われて憤慨したことがあったらしいので、あまりこういう言い方はよくないけれども。一方、アーベルとシドンの演奏は不穏な雰囲気で始まり、そこから独特の個性を展開していくように聴こえる。やはりピアノが重要な役割を担っているのだろう。時々ヴァイオリンの音がかき消されている気もするが、考えた上でのバランスだと思う。

(Sep. 9, 2023)